残業時間や残業代のトラブルを労働基準監督署に通報・相談する準備

  • 作成日

    作成日

    2024/01/31

  • 更新日

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    2024/01/31

  • アディーレ法律事務所では様々な法律相談を承っておりますが具体的な事情によってはご相談を承れない場合もございます。予め、ご了承ください。

目次

残業時間や残業代のトラブルを労働基準監督署に通報・相談する準備
働き方改革が叫ばれていても、残業や長時間労働に関するトラブルはやはり後を絶ちません。

そうした不当な労働環境に悩まされているとき、困った労働者の相談窓口として、労働者の味方になってくれるのが労働基準監督署です。

今回は、労働基準監督署の役割や、どのような場合に利用すべきか、そして利用する際にしておくべき準備などについて、解説していきます。

時間外労働や休日労働をさせるとき、使用者がしなければならない3つの義務

まず、時間外労働や休日労働に関する使用者の義務について説明します。

(1)「時間外・休日労働に関する労使協定」(36協定)の締結・届出

労働基準法では、労働時間及び休日に関する規定が定められています。

まず、労働基準法第32条において、労働時間は「1日8時間・1週40時間」が上限とされています。この法律上の上限のことを「法定労働時間」といいます。

1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2項 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

引用:労働基準法第32条

また、同法第35条において、「1週間当たり1日以上又は4週間当たり4日以上」の休日を、使用者は労働者に与えなければならないと規定されています。

法律で義務付けられているこの休日のことを、「法定休日」といいます。

1項 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも1回の休日を与えなければならない。
2項 前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。

引用:労働基準法第35条

そして、法定労働時間を超えて働くことを「時間外労働」と呼び、法定休日に働くことを「休日労働」といいます。

使用者が労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合には、以下のことを行わなければなりません。
  • 労働基準法第36条に基づく「時間外・休日労働に関する労使協定」(以下、36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ること。
  • 雇用契約書や就業規則等に「36協定の範囲内で時間外労働や休日労働を命じる」旨を明記すること。

(2)36協定における「時間外労働の上限規制」の遵守

時間外労働には、原則として「月45時間・年360時間」という上限規制があり(労働基準法第36条4項)、36協定はこの規制を遵守した内容でなければなりません。

ただし、36協定に特別条項を定めた上で労使が合意すれば、臨時的な特別の必要性がある場合に限り、月45時間を超える時間外労働が認められます。

もっとも、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、以下のような上限規制は超えることができません。
  • 時間外労働は年720時間以内(労働基準法第36条5項かっこ書き)
  • 時間外労働及び休日労働の合計が、複数月(2~6ヶ月のすべて)平均で80時間以内(同法第36条6項3号)
  • 時間外労働及び休日労働の合計が、1ヶ月当たり100時間未満(同法第36条6項2号)
  • 原則である1ヶ月当たり45時間を超えられるのは1年につき6ヶ月以内(同法第36条5項かっこ書き)

(3)時間外労働・休日労働・深夜労働に対する適切な割増賃金の支払い

時間外労働、休日労働、深夜労働(22~5時の間に行われた労働)が行われた場合には、使用者は労働者に対し、所定の割増率に基づく割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法第37条)。

割増賃金は、「1時間あたりの賃金×対象の労働時間数×割増率」という計算式によって算出されます。
割増賃金は3種類
種類 支払う条件 割増率
時間外
(時間外手当・残業手当)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき 25%以上
時間外労働が限度時間(1ヶ月45時間、1年360時間等)を超えたとき 25%以上
(※1)
時間外労働が1ヶ月60時間を超えたとき(※2) 50%以上
(※2)
休日
(休日手当)
法定休日(週1日)に勤務させたとき 35%以上
深夜
(深夜手当)
22~5時までの間に勤務させたとき 25%以上
(※1)25%を超える率とするよう努めることが必要です。
(※2)中小企業については、2023年4月1日から適用となります。

こんな時間外労働や休日労働は要注意!典型的な4つのケース

以下のようなケースに該当する場合、使用者は、労働基準法違反として罰則を科される可能性があります(労働基準法第119条)。

(1)「時間外・休日労働に関する労使協定」(36協定)が締結・届出されていない

使用者は、労使間での36協定の締結及び届出をすることなく、労働者に時間外労働や休日労働をさせることはできません。

36協定の締結及び届出をすることなく時間外労働や休日労働をさせた場合、使用者は労働基準法第32条あるいは第35条に違反することとなります。

(2)サービス残業が常態化している

一般に「サービス残業」とは、実際には労働をしているのに、勤務管理上の労働時間に計上されず、正当な割増賃金(残業代)が支払われない時間外労働・休日労働・深夜労働のことをいいます。

時間外労働・休日労働・深夜労働が行われたにもかかわらず、使用者が割増賃金を支払わないことは、労働基準法第37条に違反する行為となります。

(3)会社から「例外的な労働時間制だから、時間外労働は発生しない」と言われる

法定労働時間の弾力的な運用が認められている労働時間制を導入している場合であっても、その柔軟化された法定労働時間の枠を超えた労働時間については、時間外労働として扱われます。

そのような変則的な労働時間制度としては、以下のようなものがあります。
  • フレックスタイム制
  • 裁量労働制
  • 変形労働時間制

(4)いわゆる「名ばかり管理職」である

「管理監督者」(労働基準法第41条2号)に該当する場合には、労働時間・休憩・休日に関する労働基準法の規制が適用除外となり、使用者は時間外労働や休日労働に対する割増賃金の支払い義務を負いません(深夜労働に対する割増賃金の支払いは必要です)。

「管理監督者」とは、行政解釈によれば、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」のことをいうとされています。
またそれは、名称や肩書き、就業規則の定めのいかんにとらわれず、実態に即して客観的に判断されるべきであるとされます。

つまり、課長や部長等の肩書きが与えられていても、職務内容や勤務上の裁量等の点からみて管理監督者に相当する実態がない場合には、いわゆる「名ばかり管理職」の可能性があります。

具体的には、裁判例などでは、1.経営者と一体性を持つような職務権限を有しているか(職務権限)、2.厳密な時間管理を受けず、自己の勤務時間に対する自由裁量を有しているか(勤務態様)、3.その地位にふさわしい待遇を受けているか(待遇)といった点を考慮して、管理監督者該当性が判断されます。

これらの実態がないとして管理監督者にあたらないと判断されれば、労働時間・休憩・休日に関する規制が、通常の労働者と同様に適用されることになり、時間外労働や休日労働に対する割増賃金の支払いも必要となります。

残業時間や残業代のトラブルを労働基準監督署に申告するとどんな対応をしてもらえる?

ここからは、労働基準監督署(労基署)の役割と、労働基準監督署に相談するメリットについて説明していきましょう。

(1)労働基準監督書は、労働基準法等の違反を取り締まる行政機関

労働基準監督署は、全国各地に321署がある、厚生労働省の第一線機関です。
労働基準監督署の重要な役割としては、管轄内の会社(事業場)に労働基準法を遵守させることがあります。

(2)残業トラブルについて、労働基準監督署に期待できる対応とは?

労働基準監督署は、会社が労働基準法等に違反していると疑われる場合に、労働者からの申告や相談を受け付けます。
そうした申告等に基づいて、会社(事業場)に立ち入り調査を行い、必要に応じて、是正勧告や再発防止、改善のための指導を行ってくれます。

労働基準監督署への相談や申告を会社に内密で行いたい場合は、匿名で申告することも可能です。なお、労働基準監督官は法律上の秘密保持義務を負っているため、実名相談の場合であっても、相談者や申告者が誰であるかを会社に伝えることはありません。

労働基準監督署に申告する前に!残業時間の実態を示す証拠を集めよう

労働基準監督署に相談や申告をする場合には、労働環境に違法な実態があることを証明できる証拠を、事前に準備しておくのが良いでしょう。
有効な証拠があれば、スムーズに調査・指導へと動いてくれることが期待できます。

集めるべき証拠としては、労働条件、労働時間の実態、実際に支払われた賃金の額といった事実を証明できるものになります。
具体的には、以下のようなものが証拠として有効であると考えられます。
  • 雇用契約書や就業規則
  • タイムカードやPC使用時間履歴等の客観的な記録 など
  • 給与明細書

労働基準監督署に申告しても残業トラブルが解決しない場合は、弁護士に相談しよう

労働基準監督署に申告しても、迅速に対応してもらえなかったり、行政指導や指示された改善策等を会社が受け入れなかったりして、現実的に残業トラブルが解決しないケースもあります。

そうした状況を打破するためには、長時間労働の是正や未払い残業代の請求について、労働審判や訴訟などの法的手続きを視野に入れて、会社と交渉することになります。

会社と有利に交渉を進めるためには、法務知識や過去の判例等のノウハウを持ち合わせた弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
残業代の計算は複雑なものになりがちですし、会社との交渉や訴訟の際には有効な証拠に基づいた的確な主張・立証が求められるためです。

なお、アディーレ法律事務所のウェブサイトには「残業代メーター」という請求可能な残業代を簡単に計算できるページがあります。
ただし、簡易的に計算するものであるため、実際の請求額とは異なることがあります。
また、未払いの残業代請求権には消滅時効があるため、注意が必要です。
2020年4月に施行された民法改正の影響で、残業代請求権には2種類の時効期間が存在しています。
  • 2020年3月31日までに支払期日が到来する残業代については「2年」
  • 2020年4月1日以降に支払期日が到来する残業代については「3年」
将来的には、一般の債権と同様に5年となることも検討されています。
時効期間は、各支払期日(給料日)の翌日からスタートします。

弁護士に相談や依頼をすると、こうした残業代の消滅時効期間の確認や、消滅時効期間の更新・完成猶予といった時効の完成を阻止するための法的手続きを行ってもらうこともできます。

【まとめ】残業時間や残業代のトラブルを労働基準監督署に通報・相談するには、まずは証拠を集めましょう

今回の記事のまとめは以下のとおりです。
  • 時間外労働や休日労働をさせる場合、使用者は、時間外労働の上限規制に従った36協定の締結・届出をした上で、適切な割増賃金を支払う義務があります。
  • 36協定の締結・届出がない場合、時間外労働に見合った適切な割増賃金が支払われない場合(サービス残業)、「名ばかり管理職」として割増賃金が支払われない場合は、いずれも労働基準法違反となります。フレックスタイム制などの変則的な労働時間制であっても、時間外労働とそれに対する割増賃金の支払い義務は発生することがあります。
  • 会社が法律にのっとった残業制度の運用を行ってくれない、あるいは改善を申し入れても取り合ってくれないような場合は、証拠を取り揃えて労働基準監督署に申告するとよいでしょう。立ち入り調査に基づく是正勧告や再発防止、改善のための指導が期待できます。
  • 労働基準監督署に相談・申告しても現実的にトラブルが解決しない場合は、弁護士へのご相談をおすすめします。
不当な時間外労働や休日労働を強いられている方、未払いの残業代があって請求を検討している方は、残業代請求を扱っているアディーレ法律事務所にご相談ください。
この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

髙野 文幸の顔写真
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