景気や平均所得がめざましい上昇カーブを描いているとはいえず、残業に関する規制も年々厳しくなっているという状況の中で、昨今では副業に対する興味・関心が高まりを見せています。
企業側も、まだまだ少数派とはいうものの、副業解禁に踏み切る企業が徐々に多くなってきました。
本業と副業をうまく両立させることができれば、収入アップをはじめとするさまざまなメリットが見込めます。
その一方で、長時間労働などの副業によるデメリットが生じうる可能性も、容易に想像がつくところです。
今回は、副業に興味・関心を持っている方が、バランスを取りながら充実した働き方を実現していけるよう、副業がもたらすメリットやデメリットについて整理しながら解説します。
また、副業を始める際に起こりがちなトラブルや、それらを未然に防ぐための注意点などについても、説明を加えていきます。
副業をするメリット
まず、副業を実施することで、労働者にとってメリットがある点について説明していきましょう。
副業による労働者のメリットには、以下のようなものが考えられます。
- 仕事を増やすことにより収入を増やすことができる
- 本業では得られない知識や経験を得ることができ、スキルアップ・キャリアアップにつながる
- 収入額を気にせず「やりたいこと」に挑戦できるため、自己実現の追求や幸福感の向上につながる
- 本業での収入を得ながら、転職や起業などの準備を、余裕をもって進めることができる
なお、使用者にも、副業を認めた場合には以下のようなメリットが生じることが考えられます。
- 優秀な人材の獲得及び流出防止
- 新たな知識、顧客、経営資源の獲得
- 人材育成への好影響
副業をするデメリット
次に、副業を実施することで、労働者にとってのデメリットとなりうる点について説明をしていきます。
副業による労働者のデメリットには、以下のようなものが考えられます。
- 本業と副業の両方をこなすため、労働時間が長くなり、過重労働となる可能性がある
- 充分な休息を取れないことで、生産性が落ちる可能性がある
- 勤務時間や日数が少ない場合、まとまった収入を得にくい
- 労働日数・時間が短い場合は、雇用保険の適用対象とならない可能性がある
なお、使用者にも、副業を認めた場合には以下のようなデメリットを生じることが考えられます。
- 本業への支障
- 人材流出の可能性
- 従業員の健康に対する配慮
- 情報漏洩等、様々なリスク管理の必要性
副業で起こり得るトラブル
それでは、副業にまつわるトラブルを紹介していきましょう。
(1)本業先に副業の申請をしていない
副業をすること自体は認められているが、労働者が副業をする際には会社への申請を行わなければならないという規定が、社内規則・就業規則などで定められているケースが多くみられます。
そのような会社に勤務する労働者が、副業をするには申請が必要であるということを知らずに副業をスタートし、そのことが後になって発覚してしまい、トラブルになることが多いのです。
副業をするには申請が必要であるとしている会社で、会社に黙って副業をすると、就業規則等に違反していることになります。
そうなると、最悪の場合、懲戒処分を受けるリスクまで生じることとなってしまいます。
そうしたトラブルを未然に防ぐためにも、副業を開始する前に、「本業」として勤めている会社の副業に関するルール(就業規則等)を確認し、必要な手続きを済ませておくようにしましょう。
(2)本業先と副業先とを移動する間に労災が発生した場合の責任
この点については、それぞれの会社と労働者との間であらかじめ認識を合わせておくことで、無用なトラブルを避けることができます。
副業を開始する前に、就業規則等で副業に関するルールを確認し、副業先への(または副業先からの)通勤時に労災が起きた場合にどうなるか、という点をクリアにしておくと良いでしょう。
(3)本業の企業情報・機密情報を副業に使用してしまう
本業で知り得た企業情報や機密情報を副業で使用してしまい、トラブルを引き起こすことが考えられます。
逆に、副業で得た情報を本業に使用してしまうケースもありうるでしょう。
こうした行為は、情報漏洩そのものと言って差し支えのない悪質な行為です。
本業先あるいは副業先に損害を与える危険性があるため、懲戒処分などの処分を受ける可能性も十分に考えられます。
このようなことから、仕事上で知り得た情報に関しては、外部に漏らさないことを厳守すべきでしょう。
また、情報の取扱いに関する会社のガイドラインや規則についても、改めて確認しておくのがよいでしょう。
副業を開始する際のポイント
以上をふまえ、副業を開始する際のポイントを紹介していきます。
(1)副業は本業と両立できる仕事にする
副業をすることで本業の業務の達成量やその質にマイナスの影響が及んでしまうようになると、本業先から注意を受けたり、最悪の場合には懲戒処分を受けてしまったりするようなことになりかねません。
副業の仕事選びをするにあたっては、労働時間や仕事内容を慎重に吟味し、本業と両立させながら無理なく勤務できるものであることを意識するようにしましょう。
また、本業と副業の労働時間の合計が長くなり過ぎて、健康を害してしまうようなことがないようにくれぐれも留意しましょう。
(2)会社の就業規則を事前に確認する
副業を許可している企業でも、その多くは、副業をする場合の規則について定めています。
副業をする際には、仕事内容や勤務条件について条件を伴うことが多いので、事前に就業規則等で副業に関するルールを確認しておくようにしましょう。
(3)副業の申請・申告漏れがないよう注意する
副業を許可している企業でも、副業をする際に申請が必要とされていたり、上司への申告を義務付けていたりする場合があります。
使用者からすれば、副業の影響を考えた上での業務配分や、合理的な業務遂行のため配置についての地理的な考慮が必要となってくるなど、副業が本業に影響を及ぼすようなケースもありえます。事前の申請・申告があれば、業務上の合理性や、トラブルを未然に防げる可能性も高まりうるということが言えます。
副業をする際は、会社への申請・申告が義務付けられているのであれば、その点の漏れがないよう十分に注意を払うことが必要です。
副業・兼業の現状
厚生労働省は、2018年1月、副業や兼業について、企業や労働者が現行法の下でどういう事項に留意すべきかをまとめたガイドラインを作成しました。
さらに、企業側も労働者側も、安心して副業や兼業を行えるようなルールを明確化するため、2020年9月にガイドラインを改定しました。
それによれば、副業・兼業を希望する者は年々増加傾向にあり、厚生労働省が2018年1月に改定したモデル就業規則においても、
労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
引用:モデル就業規則|厚生労働省
とされています。
それでも、これまで述べてきたデメリットの存在等により、副業・兼業を認めていない企業の方が多数を占めています。
少子高齢化や労働人口減少の問題が叫ばれる中、働き方の選択肢を増やし、起業の手段や地方創生のきっかけにもなりうる副業・兼業の拡大に向けた環境整備の推進が待たれるところです。
参考:副業・兼業|厚生労働省
【まとめ】副業に関するトラブルでお悩みの方は弁護士にご相談ください
近年では、「働き方改革」を掲げる政府が副業を推進していますが、副業を原則として禁止している企業や、事前許可制をとっている企業も多いのが実情です。
副業には、収入アップやスキル向上などさまざまなメリットがありますが、就業規則違反などによるトラブルも起こりやすいという側面もあります。
もし副業に関するトラブルが発生してしまった場合には、労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。